2007年8月30日木曜日

5キャリア社長勢ぞろい・オールスター戦でわかったモバ研の空虚な議論

モバイルビジネス研究会に出席した(右から)NTTドコモ・中村、KDDI・小野寺、ソフトバンク・孫、ウィルコム・喜久川、イー・モバイル・ガンの各社長(29日午後、総務省)

 携帯電話の販売奨励金見直しやSIMロック解除、MVNO(仮想移動体通信事業者)の発展を議論する総務省主催の「モバイルビジネス研究会」の第9回会合が29日に開かれた。今回は全5キャリアの社長がずらりと勢揃い。NTTドコモ・中村維夫社長、KDDI・小野寺正社長、ソフトバンクモバイル・孫正義社長、ウィルコム・喜久川政樹社長、イー・モバイルのエリック・ガン社長が横一列に並ぶという「ケータイ業界オールスターゲーム」とも言うべき夢の競演となった。(石川温のケータイ業界事情)

 6月26日に行われた前回のモバイルビジネス研究会では、総務省から報告書案が発表された。販売奨励金の廃止やSIMロックの即刻解除といった過激なものではなく、当初の意気込みからはややトーンダウンした内容になったというのは、過去のコラムで触れたとおりだ。「販売奨励金は分離モデルを採用するなど端末価格と通話料金を明確に区分して、透明性のあるようにすべき」「会計制度を見直すべき」「SIMロック解除は2010年までに検討すべき」「MVNOは、卸の標準プランを策定、公表すべき」といった方針をまとめている。

 すでにパブリックコメントが募集され、各キャリアの意見は公表されているが、今回は改めて各社の社長が研究会に直接意見を述べる機会が与えられた。個性豊かな社長陣を、研究会の構成員がどう攻めていくのかが見どころとなった。

■MVPは「毛が抜けるほど努力している」孫社長

 ケータイ業界のオールスターゲームということで、会合を振り返って勝手に最優秀選手賞(MVP)を決めさせてもらうとするならば、間違いなくソフトバンクモバイルの孫社長になるだろう。

 意見発表の冒頭から「自由で公正な競争が必要。押しつけは適当ではない。基本的思想として、激しい競争を促進することが社会、ユーザーに対して正しい結果を生むと思う。すべて事業者の自主性に任せるべきだ。販売奨励金の見直しにおいても、国が特定の販売モデルに誘導するのは望ましくない。競争のなかから選択肢が出てくるのが重要なはずだ」と、研究会の方針を真っ向から否定。終始、「規制や強要は不要。自由で公正な競争環境さえあればいい」という態度を貫いていた。

 特に割賦販売や分割プランに対しては「自動車の販売をするのに、一括購入は許さない、分割販売がいい悪いと強制するものではない。一括販売も分割販売も、販売会社の自由にすべき。特定の方法に誘導するのは間違っている」と一刀両断。プラットフォームのオープン化議論に関しても「自動車でコストを削減したいからといって、トヨタ、日産、ホンダでエンジンを統一化するという議論にならない。国が各社の技術開発を誘導するのはおかしい」と指摘した。

 研究会の構成員に対し、いかに理不尽なことを言っているかを自動車業界を引き合いに出してわかりやすく説明、反論したのに好感が持てた。

MVPはソフトバンクモバイルの孫社長

 終盤には「端末、価格戦略は『毛』が抜けるほど努力している。押しつけはやめて欲しい」と訴えた(察するに相当、苦労していると思われる)。笑いを誘いつつ、言いたいことはきっちりとぶつけるというファインプレーを見せてくれた孫社長にMVPをあげないわけにはいかないだろう。

 さらに、孫社長は「競争を促進する妨げになっているのは、MNP(番号継続制度)でメールアドレスを持ち運べない点にある。事業者をまたがれるよう、メールアドレスのユニバーサル化をやるべき。一番急ぐ共通化はそこにある」と提案。また、再三発言している周波数の割り当てに関しても「800MHz帯は2社にしか割り当てられていない。2GHzは狭いカバレッジ能力しかなく、たくさんの基地局を設置しなくてはならず、高コスト体制になってしまう。4万6000局を整備するのに、1.4兆円の累積投資額となった。もし800MHzなら0.6兆円でできた。これだけで 2.2倍のコストになっている」と、現状を説明。その上で、鉄塔共有を義務化するなどの施策が必要と力説した。強制や規制を敬遠しつつ、確実に自己アピールするのはさすがと言える。

■ベテラン小野寺社長も深みのあるファインプレー

 一方、ベテランとして深みのある発言をしていたのがKDDI・小野寺社長。鉄塔の共有義務化に対し小野寺社長は「かつて、(ボーダフォンの)ダリル・グリーン元社長と私で鉄塔保有会社をつくってやろうとしたが、『うちはここに設置したい』という意見が衝突してばかりだった。地方などの単独鉄塔なら共有は可能だが、都心のビルは、スペース問題もあり、オーナーへの契約も伴ってくるなど、共有化を義務化するのは現実的には難しい」と、過去の経緯をふまえて反論。

 MVNOの議論においても、積極的にやりたいとしながらも「課題は2011年の周波数変更。我々はすべて新しい周波数に変えなくてはならない。この周波数変更に対して、どこまでMVNOが理解してもらえるかが問題。新しい周波数が正式に決まったのは2年前。7年間で対応しなくてはいけない。しかし、MVNOのなかには最低10年使わないとペイしない事業者もいる。こういう事業者に簡単に設備を切り替えてもらうことはできないし、MVOが負担することも当然できない。MVNOに関しては技術的なことをお互いが理解して行かなくてはならないため、解決すべき問題が伴っている」と、技術的な課題を説明したうえでの問題提起をしてくれたのが、傍聴している側から見るととてもわかりやすかった。

■ルーキー選手ガン社長と中村社長は2社で白熱議論

イー・モバイルのガン社長と議論を繰り広げたNTTドコモの中村社長

 ルーキー選手としての発言が目立ったのがイー・モバイル。高速データ通信サービスが好調な同社は、来春には音声通話サービスを開始する予定となっている。そのため、「いまのケータイ料金はまだまだ高すぎる。接続料を見直して低廉化すべきだ」(エリック・ガン社長)と、音声サービスに向けて有利になるような発言を繰り返していた。

 音声サービス開始に際して、すでに同社が展開している地域以外は、NTTドコモのネットワークを借りるローミングで事業展開する予定だが、「NTTドコモとは相対で交渉している。MVNOの料金は決まっておらず、高い料金をふっかけられても文句は言えない。ルールがないので、WINーWINの関係はあり得ない。NTTドコモのネットワークに接続できるかを試験しなくてはならないため、発表前の端末も提出しなくてはならない。もっとMVNOの透明性を確保して欲しい」(ガン社長)と、NTTドコモに対する不満を爆発させた。

 それに対して黙っていなかったのがNTTドコモ・中村社長。「そこまで一方的に言われるとつらい。イー・モバイルは全国で展開するという条件があるから周波数が割り当てられたはず。それがすぐにできないからローミングで対応している。いまさらMVNOを持ち出すのは変な話だ」と、ガン社長に反論。それにガン社長が応戦するなど、研究会そっちのけで、2社の白熱した議論が展開されたのだった。

■現実を一番知っている当事者間の議論で問題解決を

 販売奨励金の廃止やSIMロック解除の議論は、すでに会合が9回も開かれているにもかかわらず、研究会としての考え方は何も進展がないように見える。大手3社の社長たちからみれば、「SIMロック解除や販売奨励金の廃止議論は大きなお世話。自由競争をしているのだから、強制や規制などしないで欲しい」というのが本音だろう。

 今回の会合で5キャリアの社長が顔を揃えたことで、いかにこれまでの研究会が現実を理解していない空虚な議論であったのかを改めて認識させられた。

 どんなに優秀な有識者の先生方が集まっても、技術やマーケティングに長けている百戦錬磨の社長たちの前では、何一つ具体的な改革案など出すことはできない。小野寺社長が「この業界は技術が先行しており、法制度や研究が遅れがちになっている」と指摘していたが、モバイル業界の構造を一番理解しているのは当然ながら当事者である。

 イー・モバイルとNTTドコモとの白熱した議論を見ていて思ったのだが、いっそのこと各社の社長に毎回集まってもらい、公開の場でいまの問題点、どうすれば公平な競争環境になるのかを議論してもらった方が、よっぽど短時間で業界の課題を解決できるのではないだろうか。9回を超える会合を開いているにもかかわらず、堂々巡りの議論ばかりを繰り広げているモバイルビジネス研究会を見ているとそんな気がしてならない。


どこが一番いいんでしょうね??